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イントロダクション

全世界の映画祭で涙と笑いで観客を虜にし、絶賛されたナンニ・モレッティの最高傑作

エンドロールが流れた時、観客は、異端の名匠と呼ばれてきた監督が円熟期を迎えて真の名匠となった瞬間に立ち会えたことを喜んだ。2015年のカンヌ国際映画祭、ナンニ・モレッティの『母よ、』が上映された時のことである。自身の監督作品のほとんどで、製作・脚本・出演も兼ねるモレッティは、『監督ミケーレの黄金の夢』(81)でヴェネチア国際映画祭特別金獅子賞、『ジュリオの当惑(とまどい)』(85)でベルリン国際映画祭銀熊賞、『親愛なる日記』(93)でカンヌ国際映画祭監督賞、『息子の部屋』(01)で同映画祭パルム・ドールを受賞し、世界三大映画祭を制するという快挙を成し遂げた。

そして本作『母よ、』で、家族とは、人生とは何かという普遍的なテーマに真正面から挑み、表現者として次のステージに進んだことを証明したのだ。重いテーマとイタリアが抱える深刻な社会情勢なども背景としてさらりと描きながら、登場人物それぞれを愛嬌たっぷりに描くことで、人間の愛すべき部分を絶妙なユーモアとともに描く。作家性と娯楽性とを見事に両立し、笑いと涙が相互に観客をつかむ、モレッティ作品の魅力が満喫できる。本作でカンヌではエキュメニカル審査員賞を獲得、トロント、ニューヨーク、ウィーンなど数々の国際映画祭にも出品され、世界各国で絶賛を浴びた。

さらに本国イタリアでは、アカデミー賞にあたるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で、作品賞、監督賞など主要部門を含む10部門にノミネートされ、うち2部門で受賞した。また本作はフランスの映画批評誌カイエ・デュ・シネマの2015年ベスト1に輝いている。

仕事に生きてきた映画監督のマルゲリータは
母が余命わずかと知り、貴重な家族との時間を過ごそうとするが──

映画監督のマルゲリータは恋人とは別れたばかりで、離婚した夫との娘は反抗期の真っただ中、新作映画の撮影は思うように進まない。一番心配なのは、兄のジョヴァンニと共に世話している入院中の母アーダのことだった。アメリカから到着した主演俳優のバリーが撮影に加わるが、気性が激しく自己主張が強いという共通点を持つ監督と主役は、現場で何かと言い争うようになる。そんな折、母が余命わずかだと宣告され、何の助けにもなれないマルゲリータ。やがて心を落ち着け、選んだ道とは──。

マルゲリータに扮するのは、『はじまりは5つ星ホテルから』(13)のマルゲリータ・ブイ。イタリアを代表する名女優で、本作でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞主演女優賞に輝いたが、実に7度目の受賞となる。  バリーには、『バートン・フィンク』(91)でカンヌ国際映画祭男優賞を獲得した個性派俳優のジョン・タトゥーロ。母のアーダには、『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』(12)のジュリア・ラッツァリアーニ。そして兄のジョヴァンニを、モレッティ自身が演じている。

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